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Kogumasaka

【連載:あなたの知らないITIL】(5)ぶーか vs くねびん

みなさん、こんにちは。HPE教育サービスの小熊坂です。【連載:あなたの知らないITIL】第5回は、VUCAをとりあげます。

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COVID-19

「過去数週間にわたり、私たちはこれまで知られていなかった病原体の出現を目撃してきました。この病原体は前例のない流行へと拡大し、前例のない対応が求められています。」

これは、20201月のWHO事務局長の声明です。新型コロナウイルスの登場は、世界中のあらゆる計画に破壊的なインパクトをもたらしました。中国での新型ウイルスの発見から、緊急事態宣言、ワクチン接種の開始、各種株との戦いを経て、5類感染症への移行から現在にいたるまで、スピード、複雑さ、規模、予測の難しさをともなうこの未曽有の禍に、社会は取り組み、克服してきました。

このような状況では、既存のプロセスは役に立ちません。別のフレームワークが必要です。

VUCA

VUCA(ぶーか)は、世界の不安定で予測困難な状況を、次の4つの観点で表現したものです。従来の経験が通用しなくなり、将来の予測が困難な状況を表す際に使われます。

観点説明新型コロナウイルスでの状況
変動性(Volatility)状況の急激な変化。感染者数の爆発的増加。
不確実性Uncertainty)先が読めない。予測不可能。

ワクチンや治療法の効果も未知。

科学的知見の変化により、ガイドラインも頻繁に更新された。
複雑性(Complexity)多数の要因が絡み合い、単純に理解・解決できない。

国・自治体・企業・市民それぞれの思惑が異なる。

一つの解決策が他の分野に悪影響を及ぼす。

曖昧性(Ambiguity)意味や解釈が曖昧。複数の解釈が可能。

マスクの有効性、学校閉鎖の妥当性への評価が国・時期で異なる。

 

新型コロナウイルスが招いた状況は、VUCAの典型とされています。ではどのように対処すればよいのでしょうか。

Cynefin

Cynefin(くねびん)は、現状を次の5つに分類し、適切な対応を導くモデルです。アジャイル開発やDevOpsなどでよく見かけます。

  • 明白(Obvious):原因と結果が明確で、事前に定めたベストプラクティスがある
  • 煩雑(Complicated):専門的な分析によって、状況を理解することができる
  • 複雑(Complex):不確かで把握が不可能な状況。試行錯誤や実験が必要
  • 混沌(Chaotic):極端に複雑で、コントロール不能な状況。まず秩序を回復することが重要
  • 無秩序(Disorder):現状がどの分類に相当するかがわからない状況

ここではVUCAに対してどのように機能するかを考えてみます。

VUCAの観点Cynefinの分類説明新型コロナウイルスの例
変動性混沌

感染爆発やロックダウンなど、状況が急変 → 判断を迷っている余裕がない。

Cynefinでは「まず行動して秩序を作る」段階。
初期の緊急事態宣言、マスクや消毒液の配布など即応対応。
不確実性複雑

有効な対策が未知 → 試行錯誤しながら対応。

Cynefinでは「失敗しても安全な実験」。

ウイルスの性質や有効な対策が未知。

ワクチン開発など専門家主導の対応。
複雑性煩雑および複雑

多くの分野が絡み合い、単純な正解がない。

Cynefinでは、専門家知見(煩雑)と、多様な視点を活かす探求(複雑)を併用。

ワクチン配布の優先順位、医療リソース配分の調整。

曖昧性無秩序

判断基準がそもそも揃っていない、混乱・対立が目立つ。

Cynefinでは「まずどの領域にあるのか判断する」ことが優先。

自治体や個人で対応が分かれたマスク着用、外出自粛の解釈。

 

このように、VUCAで現状を理解し、Cynefinでどのようにアプローチするかを決定するといった使い方ができます。

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Netflix

VUCACynefinは、デジタルビジネスでも応用可能です。例えば、Netflixの取り組みは次のように考えることができます。

Netflixの取り組みCynefinの分類VUCAの観点
定型的な業務や既存のベストプラクティスに従い、効率的な運用を行う。明白VUCAではない
データ分析や専門家の意見を活用して、ユーザーの視聴傾向や市場動向を把握し、戦略的な意思決定を行う。煩雑曖昧性
新しいコンテンツの制作や機能の導入において、小規模な実験を行い、ユーザーの反応を観察しながら改善を重ね、多様なニーズや状況に対処する。複雑複雑性
急激な市場の変化や技術的な問題に対して、迅速な意思決定と行動を通じて状況を安定化。混沌変動性

 

現代社会、とりわけIT業界はVUCAに満ちています。Cynefinを含め、対応するためのフレームワークやモデルを知ることは、組織が生き残るために不可欠と言えるでしょう。

詳しくはITIL研修で

HPE教育サービスでは、ITILの研修を幅広く提供しています。詳しくはこちらをご参照ください。

https://education.hpe.com/jp/ja/training/portfolio/itsm.html

 

VUCACynefin、その他のデジタルビジネスに関する各種フレームワークは、以下の研修で解説しています。

  • HU0C6S ITIL® 4 リーダー:デジタルおよび ITストラテジー<含認定試験> (DITS Digital and IT Strategy)

 

教育サービス部トップ:

http://www.hpe.com/jp/education

 

参考文献

ITIL🄬 4 デジタルおよび ITストラテジー」

WHO Director-General's statement on IHR Emergency Committee on Novel Coronavirus (2019-nCoV) https://www.who.int/director-general/speeches/detail/who-director-general-s-statement-on-ihr-emergency-committee-on-novel-coronavirus-(2019-ncov)

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Takashi Kogumasaka
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作者について

Kogumasaka

I am a trainer of ITIL and a PeopleCert Ambassador.