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AI社会を生き抜く日本の子供達の未来は明るい(HPE Family Day in Japan)
■小学生やITにご縁のないの方に業務用コンピューターやAIを知ってもらう
2022年10月10日、東京都江東区大島のHPE本社で、ファミリーデーが開催されました。筆者は、HPEの従業員のご家族向けに、毎年、「業務用大型コンピューターとAI(人工知能)」について講師を担当しています。
もう6、7年ぐらいでしょうか、ファミリーデーでコンピューター教室をやっている気もします。このコンピューター教室は、小学校高学年以上が対象なので、難しい単語が一切使えません。
【写真その1】HPE Family Day 2022における筆者の「コンピューター教室」の様子。25分間のセッションを1日に2回実施↓
筆者は、HPEエバンジェリストとしてお客様のCIO/IT部門長と会話することがしばしばあるのですが、「わかりやすい言葉で伝える」にはちょっとしたコツがあります。コツとしては、身近なものに言い換えるということです。
「そんなこと当たり前でしょ?」と思われるかもしれませんが、社員ではないご家族向けのセッションを持つと分かるのですが、普段、いかに自分が相手に分かりにくい言葉や専門用語を使っているか身に染みてわかります。
小難しいITのことを小難しい専門用語で言い放つのは、頭を使わなくても誰でもできることです。しかし、小学生やコンピューターに全く縁のない方に説明するときは、かなり工夫が必要です。
例えば、ご家族に「うちの会社には、でっかいサーバーがあるのよ」と言うと、HPE社員は、大型の黒いサーバーマシンの筐体やラックを思い浮かべますが、一般の方は、ビールサーバーを思い浮かべる人もいるのです。
また、「データ」と言っても小学生には通じません。小学生でも英語を習う人は増えていますが、それでも「データ」は通じない場合が少なくありません。単語の抽象度が高いので、理解されないのです。
「データ」ではなく、「写真や動画やメールやLINEのメッセージ」と言い換えなければなりません。
「汎用の人工知能ソフトウェア」と言っても通じません。「人のように考えてくれる脳ミソを持ったアプリ」と言わなければなりません。
「アプリ」が通じなければ、「コンピューターの上でいろいろなお仕事をこなしてくれて、画面に出してくれるソフト」など、あの手この手で言い換えなければなりません。
「Webアプリケーション」といっても当然、専門用語ですから、理解してもらえません。専門用語ではなく、「ポケモンのゲームを世界中のみんなに届けてくれるソフト」と具体例で言います。
そして、データセンターにある大量のコンピュータの写真と、その大量のコンピューターでポケモンが動いていることを絵で説明します。すると、大量にコンピューターが必要な理由がだんだんと見えてきます。
業務用の大型コンピューターやAIが社会にどのように役立っているのか、どこにあって、どんな風に使われるのか、社会の陰の立役者を理解してもらうには、文章ではなく「たとえ話」と「絵」が絶対必要なのです。
このような、たとえ話、絵、そして、理解させるためのシナリオトークを盛り込んで、自然にAIにまで持っていく分かりやすい話の流れを作ってセッションを組み立てないといけません。
今回は、シンプルに理解してもらうシナリオトークを盛り込んだセッション内容をご紹介します。
■身近なコンピュータを知る
まずは、身近なコンピューターからのご紹介です。よくあるのが、パソコン、スマホですが、そもそも「コンピューター」とは、「すごいスピードで計算してくれる機械」だということをキチンと知ってもらうことが必要です。
すごいスピードで何を計算しているのかを知ることが必要です。そこで、パソコンやスマホだけではなく、電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器、エアコンのコンピューターは、一体何を計算しているのかを考えてもらいます。
電子レンジなら、おかずの温度。炊飯器なら、火力です。美味しいお米が食べられるのも、実は、コンピューターが火力調整の計算をしてくれているおかげだということを知ってもらいます。
ここで、いきなり「IoT(アイオーティー)がうんぬん」とか、「ビッグデータっていう巨大データがどうのこうの」と言っても、全く理解されませんし、しなくていい話です。
とにかく、小学生や一般の方が相手の場合、身近なモノから話を進めるのが、トークの前半では、特に重要です。
【写真その2】電子レンジ、冷蔵庫、炊飯器に内蔵のコンピューターは、一体何を計算しているのかを子供達に問う筆者。家電のコンピューターは、単なるタイマーや時刻機能を提供しているだけではない↓
■あまり知られていないコンピューターの話をする
そして、身の回りのモノに内蔵されている、ちょっと知られていないコンピューターのお話に移っていきます。すこしだけ難度をレベルアップさせます。例えば、自動車に使われているコンピューターです。
筆者は、「コンピューターによるエンジンの排気ガス制御」のお話をします。みなさんは、自動車のエンジンがコンピューター制御なのは、ご存知ですか?
車の排気ガスは、エンジン回転数だけでなく、入ってくる空気と燃料濃度の比率で汚れ具合が変わります。そこで、空気と燃料の比率(窒素酸化物濃度)を最適に保つためにコンピューターでリアルタイム制御しているのです。
「そんな難しいこと、小学生が理解できるの?」と思われるかもしれませんが、もちろん、回転数がどうのこうのとか、窒素酸化物の濃度うんぬんの話は全くしませんし、してはいけません。
「コンピューターが一所懸命計算し、車から出る地球を汚すガスを、できるだけ綺麗なガスにするように、エンジンを動かしてくれている」と言えばそれで終わりです。
重要なのは、排気ガス制御の仕組みではなく、身の回りの自動車やインフラで、実は、見えないところにコンピューターが内蔵されていて、社会全体に欠かせないということを知ってもらうことが重要です。
ほかにも、飛行機の操縦もコンピュータで行われていることも紹介します。いわゆるオートパイロットモードの話です。
現在の飛行機の離陸と着陸は、人間のパイロットが操縦桿を両手で握って操作しますが、離陸した後の上空において、パイロットは、操縦桿を握らず、コンピューターが自動操縦します。
AIではない飛行機のコンピューターでも自動操縦の世界があり、すでに身近なところで利用されていることを理解することは、「コンピューターによる自動化」の適材適所を理解する上で、非常に重要なことです。
飛行機の自動操縦が実現できているのに、なぜ自動車の完全な自動操縦がなかなか実現できていないのかといったことも本当は考えてもらいたい内容なのですが、本セッションでは、問いかけのみで、軽くスキップします。
【写真その3】自動車のエンジンや航空機の自動操縦に使われているコンピューターを知ってもらう。興味のあるご家族には、飛行機に比べて、車の自動運転が難しい理由も考えてもらう↓
■「業務用の大型コンピューター」が社会でどのように役立っているのかを知ってもらう
そして、1940年代の大型コンピューターから端を発し、時を経て、パソコン、スマホも、コンピューターが高性能になっても、どんどん筐体は、小型化していくことを理解してもらいます。
にも関わらず、なぜ、タンスのような大きなコンピューターが存在するのか、一体誰が買うのか、何を計算するのか、なぜそんなに大量に必要なのかを理解してもらいます。
それを理解するには、パソコンやスマホの利用者の立場と、それを支えるサービス提供側を、左右に対比して理解してもらいます。いわゆる立場の違いから、大型コンピューターを理解してもらうわけです。
・ネットショッピングなら、
→ パソコン:ネットショッピングサイトでお買い物する。
→ 大型コンピューター:たくさんの人々がネットショッピングでお買い物ができるように、陰で、ずっとネットショッピングの仕組みを動かしてくれている。大事なお金も預かってくれている。
・LINEなら、
→ スマホ:LINEで楽しく会話する。
→ 大型コンピューター:世界中のたくさんの人々のLINEの会話やLINEスタンプを、一度にたくさん届けてくれている力持ちの配達人。
・YouTube動画なら、
→ スマホやパソコン:好きな映画やユーチューバーの面白い動画をいつでも見ることができる。
→ 大型コンピューター:世界中のたくさんの人々に、たくさんの動画を24時間絶え間なく、ずっと届けてくれている。
・対戦ゲームなら、
→ スマホやパソコン:ゲームで遊ぶ。ゲームのアイテムを買って友達に自慢する。
→ 大型コンピューター:世界中のたくさんの人々に、いろいろなゲームを届けている。いろいろなアイテムやアイテムのお金を溜めてくれている。
上記のような感じで、大量の大型コンピューターが見えないところで役立っていることを知ってもらうわけです。「高速処理している」と言ってはダメです。「処理」という言葉は、抽象度が高く、小学生には難しいからです。
パソコン同士やスマホ同士が直接通信してLINEのメッセージやネット対戦ゲームが動ているわけではない、ということを知ると、大型コンピューターの役割を理解してもらえます。
【写真その4】「利用する側」と「提供する側」の立場の違いを左右の絵に分けて説明することで、大型コンピューターを理解してもらう↓
■知られざる「業務用の大型コンピューターの値段」を知ってもらう理由
そして、筆者のセッションでは、サーバーの実機を展示します。実は、筆者のセッションは、毎年そのときの最新のコンピューターをご紹介しようと思って、サーバーの部品も展示します。
今回は、高さ1UのProLiant DL360 Gen10と、高さ2UのProLiant DL560 Gen9を用意し、サーバーのパーツをバラバラにして展示しました。
しかし、それらのパーツを見たただけは、所詮、「なんか機械の部品が置いてある」というだけです。そこで、その機械がすごい高価なものであることを理解してもらうと、食いつきもいいわけです。
なので、ものすごい高額なパーツの値段や、業務用の大型コンピューターとしても非常に高額なスパコンの1台の値段を知ってもらうと、「非常に高価な機械をHPEは取り扱っている」と理解してもらえるわけです。
この値段の話は、小学生よりも、大人が驚かれることが多く、ものすごい高価なCPU、メモリ、グラフィックボードなど、とんでもない値段のコンピューターの部品を実際に目の前で見てもらったり、触ったりしてもらいます。
これが毎年かなり好評で、めずらしいからか、皆さん、写真を何枚も撮っていました。
そして、秋葉原で売っているパソコンの部品と見た目が変わらないのに、業務用の大型コンピューターの部品や本体は、なぜそんなにお値段が張るのかも説明します。みなさんは、その違いを小学生に説明できますか?
【写真その5】とんでもない値段を披露する。ご家庭にある骨董品の値段を鑑定する日本の某TV番組風にHPC(High Performance Computing)サーバーの値段を披露する様子↓
【写真その6】スパコン本体やサーバーパーツの金額を言った後に、布で覆い隠しておいたサーバーの本体とパーツの実物を見てもらう。すると、非常に興味を持って実物を見てもらえる↓
■そして、ハードウェアのパーツから、AIを理解する
サーバーのパーツを知ってもらうのは、値段だけではなく、何の役割があるのかをしっかりと理解してもらう必要があります。
・CPUなら、「計算してくれる」
・メモリなら、「いろんなアプリが動く」
・SSDなら、「大事な写真や動画やLINEスタンプやゲームのアイテムを溜めておいてくれるところ」
・GPUなら、「画面に絵を綺麗に表示してくれる」
と説明すると理解してもらえます。ここでは厳密な説明は不要です。しかし、ここで、グラフィックボードで使われているGPU(ジーピーユー)がAIに使われていることを語ります。
なぜAIの計算では、CPUではなく、GPUが使われるのか。この理由については、質問があった大人の方に説明しています。みなさんは、CPUではなくGPUが利用される理由を小学生に説明できますか?
そして、GPUというパーツがAIに使われるということを知ってもらってから、後半は、AIの解説です。
AIは、人工知能ですが、「人の脳ミソのように、勉強して頭がよくなっていく、すごいアプリ」と説明します。
AIにおける「学習」という言葉が小学生にも一般の方にも、ちょっと難しいので、「AIも計算ドリルをやって、算数を覚える」、「漢字ドリルをやって、新しい漢字を覚える」と言い換えます。
これにより、AIアプリが「教科書にある文字や写真から物事をいろいろ覚えて、わかるようになるソフト」といった形で、小学生自身がいつも勉強している生活スタイルになぞって、たとえ話をします。
いきなり、ITに詳しくない方に、「AIの学習・推論」って言っても、大人でも全く理解できないので、単語に注意しなければなりませんし、わかりやすい「たとえ話」と「言い換え」が必要です。
【写真その7】絵を表示してくれるグラフィックボードの計算が、AIの計算と似ている点を説明↓
■計算ドリルが足りないAIをあえて見せる
セッションでは、筆者が用意したAI環境で、自動車や犬や馬や人の画像を認識するデモを行います。重要なのは、AIがなんでもかんでも完璧にうまくいくデモは、逆に、理解を深める上で、あまり効果的ではないという点です。
筆者のAIのデモでは、AIが自動車や馬に乗った人間を判別できるのに、犬を馬と間違えてしまうところをあえて見せます。なぜ不完全なAIを見せるのでしょうか?
これを見せるときには、どのように説明すべきでしょうか? 「学習回数に依存する」「プログラムの出来に依存する」と言ってはダメです。そんな説明は、小学生に全く理解してもらえません。
「犬の形を覚える、馬の形を覚える、という計算ドリルが足りないから、AIが犬と馬を間違えた」と説明します。
すると、読み込ませる画像が少ないと、AIも判定を間違うということが理解でき、AI界隈における「学習」という言葉を使わなくても、「AIが学習する」ということを理解してもらえます。
最後は、実際に日本の高速道路を使った自動運転のAIの動画で締めくくります。そして、そのようなAIを作るには、プログラミングしないといけないことを理解してもらいます。
小学生のお子様がいらっしゃる方は、ご存知かもしれませんが、日本では、2020年からプログラミングが小学校で必須科目になっており、今の小学生は、プログラミング教育を受けて、ソフト作りをしています。
学校で「気乗りしないのに、やらされている感が満載のプログラミング」が、実は、これから大人になったときのAI社会で、自分達に大きく関わってくる可能性があることを、ここで初めて知るわけです。
すると、小学生や中学生などから、「プログラミングをちゃんとやらないといけないと思った」、「AIを作りたいけど何を勉強すればいいの?」という返事が返ってくることがあります。
筆者は、毎年、そのような言葉が最後に子供達から返ってくるかどうかで、セッションがうまくいったかどうかを判断しています。
ちなみに、セッションの最後の展示で、これがCPU、これがGPUといった感じでモノを紹介するのですが、「AIで必要なのは、どれ?」と質問すると、小学生はちゃんと「ジーピーユー」と言って、GPUを指でさしてくれます。
みなさんも、「AIに必要なパーツ」をちゃんと指でさせますか?
【写真その8】昨年もご紹介した「犬を馬に間違える画像認識AI」を動かすライブデモを実施。ちなみに画像認識ソフトは、VMではなく、HPEサーバー上にインストールしたコンテナエンジンで動かしている↓
■AI社会を生き抜く日本の子供達の未来は明るい
子供達は、このファミリデーに参加して、「みんなの生活を助けている、とっても大きなコンピューターがあるんだな。人工知能は、プログラミングが必要なんだな。学校のプログラミングの勉強を頑張らないといけないな」と感じたかもしれません。自分のお父さんやお母さんが、なんとなく何をやっていて、なんとなく、どれくらいの規模のモノを売って、なんとなく、それがどのように社会に役立っているのか、子供達は、このセッションを聞いて、なんとなく、初めてわかります。そして、大人達と共にした子供達のそれらの記憶は、大人になっても脳の奥底に刻まれ続けることでしょう。
しかし、正直言えば、ファミリーデーで学んだ今回のセッションの内容など、子供達が正確に覚えていなくても全然よいと筆者は思っています。2030年代、子供達がアルバイトや就職などで社会と接して「自分でお金を稼ぐ立場」になったとき、いやおうなしにAIと向かう社会になっている可能性は大いにあります。
その時、お父さんやお母さんに連れて行ってくれたあのファミリデーの記憶が、なんとなく、うっすらと蘇り、「大きなコンピューターがなにやら陰で社会を支えている。AIが生活を変える」ということに子供達が気づいて、自分達の未来を切り開くヒントになれば、このファミリデーは、それだけで大成功です。
ファミリデーの存在意義は、決して、筆者のIT授業の内容うんぬんではなく、企業活動を通じて、「子供達やご家族、社会が健やかに成長していくこと」なのです。
【参考動画】「We Are HPE」
https://www.hpe.com/h22228/video-gallery/us/en/21d602c5-9a95-4345-ab0a-5877d0b4fb85/we-are-hpe/video/
■今後
ということで、今年は、Face to Faceで本社に集まって、リアルでの開催だったので、みなさんとても楽しそうでした。ファミリーデーは、来年も開催されると思うので、筆者が来年もこの会社に在籍できれば、コンピューター教室は、続くかと思います。
みなさんも、「業務用の大型コンピューターって何?」「なぜ大量に大型コンピューターが必要なの?」「AIって何?」を自分の言葉で、子供達に分かりやすく説明して、ご家庭でコンピューター教室を開いてみてください。
Masazumi Koga (Twitter: @masazumi_koga)
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