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Masazumi_Koga

【前世紀AI技術者が語るシリーズ】「このはし渡るべからず」を恐れず突き進む一休さん企業が生き残る

VIson AI on HPE ProLiant DL320 Gen11.png筆者がFORTRAN 77とC言語でAIプログラミングを始めたのが1997年。そんなレトロ感満載の米国HPE公式AIアンバサダー古賀政純(こが まさずみ)が、AI・データサイエンスがらみの話をざっくり語るブログ記事、5回目は、「伝統的なAI」について、ざっくり語ります。

■生成AI基盤も重要だが、伝統的なAI基盤も非常に重要

今年になって自社のデータ活用を見据えたAI基盤のご相談が徐々に増えています。

具体的には、AIの学習用の比較的ハイエンドのGPUを搭載したサーバーと、AI推論用のローエンドGPUを搭載したサーバーの検討です。

とくに、PoC(概念実証)段階のものでは、どれくらいのGPU性能で、どれくらいのAI学習がどれくらい時間で、どれほどの精度のAIが出来上がるのかを試すといった導入が見られます。

AI学習用のハードウェアとしては、2Uの汎用サーバーのProLiant D380 Gen11にハイエンドGPUを1枚、ないしは、2枚搭載した構成や、ProLiant DL380a(GPUを搭載することを念頭においた機種)でGPUを4枚搭載するといった感じです。

一方、AI推論用は、DL320 Gen11などの1Uサーバで比較的コストを抑えたローエンドGPUを搭載する構成が検討されます。

しかしながら、AIを有効活用するには、たんに、GPUのスペックだけでなく、データ分析やAI開発のスピードアップを考慮したAI学習・推論インフラの検討が絶対に不可欠です。

AI基盤を導入する上で、インフラ目線で語られる代表的なポイントを挙げるとすると、ざっくりこんな感じです。

  • AI活用のためのデータ分析用のIT基盤をスモールスタートで開始できるように検討していますか?
  • AI活用のためのデータ管理の手法を検討していますか?
  • 資金面や人材面以外で、AI開発推進のネックになりそうな要素は何ですか?
  • AI学習用サーバー基盤を利用する開発者の課題が何ですか?
  • AI推論用サーバー導入のハードルを下げる検討はしていますか?
  • GPU搭載サーバーの安定稼働に必要な考慮点は、何ですか?
  • そもそも、その業務に、本当に生成AIがマッチしていますか?本当に生成AIまで必要ですか?

AIを武器にしろとCIOから言われているIT部門(DX推進部門)は、こういった内容を踏まえて、具体策を検討して小さいシステムでもいいから、とにかく前に進めなければなりません。

上記のポイントを見て、「なんか、AIって、面倒そうだなぁ」と感じて、「石橋をたたいて渡らない」を繰り返していると、正直、AIの世界は、まったく前に進みません。どんどん他社や海外の企業に取り残されて、気づいたときには天と地の差になり、まったく歯が立たない、といったことになってしまう恐れがあります。

ちまたでは、生成AIが旬ですが、AIは、生成AIだけではありません。伝統的なAIもあります。しかし、生成AIだけでなく、伝統的なAIでも、日本企業は、AIの導入に躊躇するケースが少なくありません。

そして、海外の成功事例を見ると、あまりにもその規模感と完璧ともいえる成果に圧倒され、自分の心の中に「AIの橋、わたるべからず」という注意書きの立て札を無意識に設置してしまい、DX推進施策検討項目の中からAIが消えてしまうといった事態に陥ってしまいます。

しかし、日本企業は、そんな「このはし、渡るべからず」の注意書きの立て札など気にせず、TVアニメの『一休さん』のように、あの手この手で「とんち」を利かしながら、フロンティア精神でどんどんAIの橋を渡っていくべきです。

というのも、日本は、投資家の目線でいうと、AIインフラへの投資も盛んですし、AIソフトウェアの分野でも、AIベンチャーやスタートアップの起業もそれなりに存在し、官民の両方で盛り上がりを見せている国の一つなのです。

日本企業は、今の段階でも、どんどん世界に打って出て、海外企業に臆することなく、堂々とAIでビジネス展開できるポジションにいますし、AIでビジネスを行うための環境も整っています。ですから、海外の巨大企業の大規模AIの成功事例に気後れする必要など全くありません。

「でも、AIって、すごい大規模システムでお金かかるでしょう?複雑で開発も大変しょう?」と思われる方もいるかもしれません。

たしかにChatGPTのように、「人間のように融通がきく非常に高精度な生成AI」をまったくのゼロベースで開発して自社に実装するとなると、それはそれで莫大な資金が必要ですし、とんでもない数のGPUサーバーが必要です。

しかし、世の中、そんな大規模で超高精度な生成AIだけが必要とされているわけではありません。

生成AIは、たしかに革新的で非常に魅力的に映りますが、生成AIではないAIも日本企業にとって非常に重要です。画像認識、音声認識など、比較的小規模に始められるものもたくさんありますし、それらで成果を上げている日本企業も数多く存在します。

なので、ChatGPTのような生成AIにとらわれず、様々なAIが存在し、そういった生成AIではないAIが日本企業のいたるところで必要とされている、という目線で冷静にAIと向き合っていただきたいです。

■伝統的なAIが日本企業を強くする

AI_workflow.png生成AIではない伝統的なAI、すなわち、人間の創作のようなクリエイティブな成果物は、生み出さないAIがどのよなものなのかを見てみましょう。代表的な伝統的AIとしては、予測型AI、識別AI、制御系AIなどがあります。

★予測型AI

予測型AIは、株価予測、天候予測、 販売予測、故障予測、顧客行動予測などがあります。過去データから未来予測するというわけです。AI開発部門では、時間経過に伴う変化をモデル化する開発が行われます。一方、IT部門は、AIコンピュート基盤をAI開発部門に提供します。HPE ProLiantサーバーにGPUを搭載し、AIコンピュート基盤としてAI開発部門が使いやすい形で環境を素早く提供しなければなりません。そして、事業部門は、ベテランの勘と経験を若手も獲得するといった業務改善の目線をAIに期待します。

★識別AI

識別AIは、画像認識、動画認識、スパムメール分類などがあります。データの特徴を学習し、学習したモデルを使って、階級別やカテゴリに分類します。この学習には、GPUが当然、利用されます。AI開発部門では、大量データでモデル化する必要があり、データサイズが大きくなる傾向があります。IT部門は、AIコンピュート基盤をAI開発部門に提供しますが、画像や動画などは、データサイズが大きいため、スケールアウト型の使いやすい巨大ストレージが必要になることが少なくありません。GPUを搭載したHPE ProLiantサーバーを提供するだけでなく、AI用のデータを保管するストレージサーバーなどがAI開発部門に提供されます。事業部門は、手間削減、商品差別化、セキュリティ強化といった業務目線を持っています。

★制御系AI

制御系AIは、ロボット制御、ドローン制御、クルマの自動運転などに活用されます。もちろん、制御系AIだけでなく、識別AIなども組み合わせて利用されます。総じて、現況をAIに入力し続け、リアルタイムで自動制御するといったことにAIが活用されます。AI開発部門は、AIモデルのソフトウェア開発スキルだけでなく、組み込み機器の知識や、IoT(Internet of Things)のノウハウ、IoT機器との接続プロトコルなどの基礎知識も必要となる場合があります。一方、IT部門は、AI開発部門に対して、データセンターのGPUサーバーだけでなく、IoTを見据えたエッジ環境(産業機器だけでなく、エッジ向けARMサーバーなど)などを提供します。事業部門は、小型化、省電力化、防塵といったハードウェア目線での機能強化や、エッジ機器の応答速度などに期待が寄せられます。

ちなみに、筆者が1990年代にやっていたAIは、ニューラルネットワークを使ってシステム(工場や機器など)の挙動をうまく表現できるパラメータを探索するという、いわゆるシミュレーション工学(知識工学)の分野でした。これが応用されると制御系AIに実装されるのですが、そういった伝統的なAIを使った最適経路探索(最短経路探索)や最適パラメータ探索は、決して「古臭い」わけではなく、いまでも大学や企業の開発部門でも盛んに研究されていてます。

■生成AIではなく、識別AIで成長した台湾の製造業

Factory_AI.png生成AIではなく、識別AIで効率化を果たした企業は、非常に多く存在します。有名な例は、山ほどありますが、その中でも、弊社のHPE ProLiantサーバーを製造している台湾のフォックスコン社は、工場でのProLiant製品の検査に識別AIを使っています。もうちょっと具体的に言うと、受注製品ラインのインテリジェント検査をAIで行っています。毎月の生産量が45,000台を誇る製品の出荷前検査時間を大幅に削減し、かつ、製品の欠品率の改善を目的として、AIが導入されました。

また、識別AIの基盤そのものもHPE ProLiantサーバーで構成しています。具体的には、ガントリーロボットカメラとHPE ProLiantサーバーで構成し、機械学習エンジンが稼働します。工場のラインを流れるHPE ProLiantサーバーの製品検査に必要なカメラ画像も非常に高解像度で、写真1枚当たり数十メガバイトにもなります。このような高解像度のデータをリアルタイムで保存し、かつ、リアルタイムでAIが読み取り、ラインを流れてくる製品に不具合があるかどうかを瞬時に判定しています。

フォックスコン社では、工場のラインを流れるHPE ProLiantサーバーの傷や、サーバーのマザーボードにボタン電池が正しく装着されているかどうかや、配線の誤りなどをリアルタイムでAIが自動検知しています。このAIの仕組みにより、従来のパブリッククラウドでの計算処理と比較して、画像判別にかかる処理速度は約20倍、欠品率を25%も改善し、結果、製品品質の改善と顧客満足度を向上させることに成功しています。

■意外にも、AI基盤ソリューションをいろいろ提供しているハードウェアベンダーのHPE

HPE_Private_Cloud_AI.png生成AIではない伝統的なAIの導入には、GPU搭載のProLiantサーバーだけでは実現できません。そこには、AIベンダーのソリューションも必要です。

実際、フォックスコンの事例でも、画像認識を専門とするAIベンダーがソリューションを提供し、AIプロジェクトに深く関わっています。

HPEのようなGPUサーバーを提供するハードウェアベンダー、全体アーキテクチャを検討するアーキテクト、ハードウェアベンダーによるAI向けのLinuxサーバー環境の構築、そして、AIベンダーとの密なコミュニケーションが重要です。

AI導入を躊躇する企業や組織体に対して、HPEは、生成AIだけではなく、伝統的なAIについても製品を展開しています。GPUを搭載できるHPE ProLiantサーバーだけでなく、その上で動くAI基盤ソリューションソフトウェアを取り揃えています。具体的には、以下を提供しています。

このように、単にAIといっても、何もない状態から、AI基盤を入れるとなると、AIモデル開発用のデータ管理や、分析ツール、検索ツール、GPU利用の効率化やAIモデル開発学の効率化なども必要になるため、そういったもろもろのAI基盤に関する日常の開発業務を効率化するための使いやすいAI基盤ソリューションが必要になってくるのです。

ただし、AIに関して、あまり高すぎるハードルを設定して、高精度で、豊富な機能を盛り込みすぎると、それはそれでいくらお金があっても足りないといった「非現実的なAI基盤」になってしまいます。

AIシステムでも、あまり複雑になりすぎない、完璧を求めすぎない、シンプルなものにする、というのが意外と重要ですが、シンプルといっても、単にAIのソフト買ってきて終わり、ということではありません。上記のようなAI基盤ソリューションの助けを借りて、データの準備、加工、学習、微調整、推論といった一連の流れを簡単にできることがAIを作る上で非常に重要なのです。

筆者が90年代にやっていたような、手作り感満載のAIもそれはそれで勉強になるのですが、今の時代、ベンダーが出しているAI基盤ソフトウェア(AI・データ分析のオープンソースをすぐに使いやすい形で提供してくれる基盤ソフト)をうまく使えば、それなりに楽をしながらもAI基盤を構築し、AI開発も省力化できます。決して、魔法の杖ではありませんが、ベンダーが出しているAI基盤ソフトウェアは、それなりに使いこなすと非常に便利です。

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みなさんも、是非、AI基盤の構築や、AIモデル開発を効率化するベンダーのAI基盤ソフトウェアやAIアプリを検討してみてください。

そして、生成AIといった「創造性を発揮するAI」だけに目を奪われるのではなく、海外のAIの成功事例や規模に気後れせなどせず、伝統的なAIでも企業は生まれ変われるといった開拓精神と工夫で、どんどんAIの世界へ通じる橋を渡ってみてください。

KOGA MASAZUMI (@masazumi_koga)

About "Ikkyu-san" story:

The "Ikkyu-san" is the story of a famous monk in Japan. Ikkyu-san is good at wit and overcomes various difficulties with his wit and ideas. One of Ikkyu-san's famous stories is "Kono Hashi Wataru Bekarazu". In Japanese, "Kono Hashi Wataru Bekarazu" means "Do not cross this bridge".
In Japanese, bridge is pronounced "hashi", but there is also a word with the same pronunciation "hashi" that means "edge". In the story, Ikkyu-san had to cross a bridge, and in front of the bridge there was a sign that said "Kono Hashi Wataru Bekarazu". Ikkyu-san interpreted "hashi" as "edge of the bridge" and walked boldly through the middle of the bridge.
Japanese is said to be the most difficult language in the world, but I hope that Japanese companies will not be intimidated by creating AI and will continue to introduce AI platforms. So I wrote a blog post about this famous Japanese character, Ikkyu-san, with the hope that Japanese companies will become like Ikkyu-san, who overcame problems with this bold interpretation, and "cross the bridge of AI."

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作者について

Masazumi_Koga

Hewlett Packard Enterprise認定のオープンソース・Linuxテクノロジーエバンジェリストの古賀政純が技術情報や最新トピックなどをお届けします。保有認定資格:CCAH(Hadoop)/RHCE/RHCVA/Novell CLP/Red Hat OpenStack/EXIN Cloud/HP ASE DataCenter and Cloud等